弊所には、借金問題でご相談に来られる方が多くいらっしゃいます。
最近は、ギャンブルやゲーム課金などの浪費をしてしまい、免責不許可事由があることから破産をするかどうか悩んでおられる方も多いです。
本記事では、そのような方のために、「免責不許可事由」について解説します。
免責不許可事由とは何か
「免責不許可事由」とは、破産法第252条に定められており、破産手続をしても借金の支払義務がそのまま残ってしまう事情のことをいいます。
例えば、ギャンブルをして多額の借金を抱え、そのあとすぐに破産申立をしたような場合では、ギャンブルによって多額の借金を抱えたことが免責不許可事由にあたり、免責が認められないことがあり得ます。
しかし、ギャンブルをして借金を抱えたと言っても、その額は人によって様々であり、「ギャンブルをしていたからといって直ちに免責が認められなくなる」というわけではありません。
実際に「裁量免責」という制度があり、免責不許可事由があったとしても、裁判所が状況を総合的に判断して免責を許可するケースが多くあります。
令和5年の東京地方裁判所倒産部のデータ(判例タイムズ1518号)によれば、免責不許可となった件数は全体の0.32%です。
つまり、破産を申し立てた方のうち99%以上が免責を受けているということになります。
このことが示しているように、免責不許可事由があるからといって、ただちに免責が受けられなくなるわけではありません。
免責不許可事由を必要以上に恐れず、まずは事実関係を整理することが大切です。
主な免責不許可事由の解説
以下に、破産法252条に定められている主な免責不許可事由を挙げ、それぞれについて説明します。
①債権者を害する目的で、財産を隠したり、不当に処分した場合(第1号)
破産法252条1項1号
債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
債務者が破産を見越して財産を隠してしまえば、債権者にとっては配当の機会が失われ不当に損害を被ることになります。
このため、このような行為をしてしまうと免責不許可事由となります。
例えば
- 妻に現金や不動産を贈与
- 保険の解約返戻金を裁判所、管財人に申告せずに隠す
- 高額な資産(不動産など)を親族に安く売却する
このような行為は悪質だとみなされることが多いので、免責を受けることは厳しくなります。
破産の申立をする際は、財産隠しの疑いを持たれないように、丁寧な財産調査をして少額の資産であってもきちんと裁判所に報告することが必要です。
② 不当に債務を負担したり、不利益な処分をする行為(第2号)
破産法252条1項2号
破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
経済的に合理性を欠く債務負担行為を行って、破産手続を遅延させたような場合には、債権者の利益を害することとなるために免責不許可事由として規定されています。
具体的には
- 返済ができない状況なのに、著しく高金利の貸金業者(ヤミ金など)から借り入れをした
- クレジットカードを利用してブランド品を購入しこれを換金した(クレジットカードの現金化)
- 借り入れにより購入したiPhoneをすぐに安く換価した
といった行為がこれにあたります。
③不当な返済行為
破産法252条1項3号
特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
破産法では、債権者を平等に扱わなければいけないとされていますので、一部の債権者だけに返済するような行為は免責不許可事由とされています。
具体的には
- 保証人に迷惑をかけないために、保証人がついている借金だけ返済する。
- 消費者金融などからも借金があるにもかかわらず、親族にだけ返済する
このような行為が本号の免責不許可事由となります。
④浪費や賭博
破産法252条1項4号
浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと。
パチンコや競馬、株取引、FXなどのギャンブル、ブランド物の購入や多額の飲食、ゲーム課金による浪費、
このような行為も、破産者の財産を減少させて債権者を害することとなるので免責不許可事由となります。
ただし、浪費又は賭博によって「著しく」財産を減少させたり、「過大な」債務を負担した場合ですので、
少額のギャンブルであったり、収入相当の飲食店で食事をするような場合であれば免責不許可事由とはなりません。
⑤嘘をついて借金などをすること
破産法252条1項5号
破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
これは簡単に言うと、「もうすぐ破産すると分かっているのに、その事実を隠してウソをつき、新たにお金を借りたり、ローンを組んだり、ツケで物を買ったりする行為」のことです。
このような詐欺的な行為は、特定の債権者をだます悪質なものなので、免責不許可事由として定められています。
⑥裁判所、管財人に対する調査協力義務違反
破産法252条1項8号
破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたこと。
これはわかりやすく説明すると、「免責を受けるためには、裁判所や破産管財人に対して誠実に対応しなければならない」ということです。
具体的には、裁判所や破産管財人からの質問を無視する、または回答を拒否する。
財産の状況について、本当は持っている預金や保険、自動車などを「持っていない」と偽って報告する。というような嘘の説明をすること等です。
⑦破産管財人等の職務の妨害
破産法252条1項9号
不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
前号と同様に、破産管財人などの職務を妨害すると、免責不許可事由となります。
⑧過去7年以内に破産等を行っている場合
破産法252条1項10号
次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
これは、過去に破産免責や民事再生での免責等を受けてから7年以内に、再び免責を求める破産申立てをした場合、原則として免責を認めないとする規定です。
破産のような借金をリセットする制度は、短い期間では何回も使えないということになります。
裁量免責について
以上のとおり免責不許可事由について説明してきましたが、先にも書いたとおり、免責不許可事由があるからといって、必ず免責が受けられなくなるというわけではありません。
破産法252条2項
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
これは、免責不許可事由があっても、事情によって裁判所が免責を認めることができるという規定です。
現実には、多くのケースで裁量免責が行われています。
最後に:必要以上に恐れず、正しく理解を
「免責不許可事由」という言葉を聞くと、破産しても借金がなくならないのではと不安になるかもしれません。
しかし、多くの場合は事情を丁寧に説明し、誠実に対応すれば、裁判所の裁量によって免責が認められる可能性は高いです。
大切なのは、過去の行為を隠さず、破産手続を正しく行うことです。
ご不明な点があれば、信頼できる専門家とともに状況を整理してみるのも一つの方法です。
ご自身の経済的再出発のために、適切な判断をされることを願っております。
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